士業の安定経営を実現する 事務員の公正な評価と「退職リスク」を回避する報酬設計

はじめに

売上が安定し、事務員という貴重なパートナーと共に事業を営まれている先生方へ、心よりお祝い申し上げます。士業の先生方の専門業務の裏側で、電話対応、期日管理、書類作成といったバックオフィス業務が滞りなく行われることは、極めて重要です。多くの経営者が、この「当たり前の業務」を軽視しがちですが、この当たり前を支える事務員の方への適切な評価と報酬設計こそが、先生方の事業を安定させ、さらなる成長へと導くための最も重要な経営判断となります。この記事では、事務員のモチベーションと定着率を高め、突然の退職という致命的なリスクを合理的に回避するための具体的な戦略を共有します。

この記事でわかること

この記事を最後までお読みいただくことで、士業の先生方がバックオフィス業務を公正に評価し、事務員に適切なインセンティブを提供するための具体的な基準を持つことができます。具体的には、事務員への感謝と評価を怠ったことで業務に致命的な穴が開いた失敗事例を分析し、優秀な事務員を定着させるための昇給やボーナスといった報酬設計の合理性、そして、私が実際に採用している突然の退職を防ぐための戦略的な退職手当制度について詳しく解説します。さらに、属人化という経営リスクを回避し、ライフイベントを尊重しながらも業務の継続性を担保するための心構えについても言及します。

事例 当たり前の業務を評価しなかった結果業務に致命的な穴が開いた士業

これは、あくまでも架空の事例ですが、事務員の「当たり前の業務」に対する感謝と評価を怠った結果、事業に深刻な影響が出た士業の典型的な失敗パターンとしてお話しさせていただきます。
仮に、順調に顧客数を伸ばしていた行政書士の先生が、事務員を雇用していたとします。その事務員は、期日管理や書類提出といった業務を、言われなくても正確に、納期通りに遂行していました。先生は、事務員がミスなく業務をこなすことを「プロとして当然のこと」と考え、特に昇給やボーナスといった金銭的な評価も、感謝の言葉も積極的に行いませんでした。
ある日、この事務員は突然、退職願を提出しました。理由は「自分の仕事が評価されていないと感じた」というシンプルなものでした。事務員が退職した後、業務を引き継ぐ者がいなかったため、先生は急遽、全ての事務作業を自分でこなす必要に迫られました。その結果、重要案件の期限に遅れが生じたり、顧客への連絡が滞ったりして、士業としての信用が大きく揺らぎました。
この失敗の教訓は、「事務員が期日通りに業務を遂行することは、決して当たり前ではなく、先生の信用という事業の生命線を守るためのプロの仕事であり、その努力は適切に評価され報われるべきである」という点です。東京から大阪への移動で新幹線が三十時間遅れることが許されないように、士業の業務において期日厳守を支える事務員の方への感謝は不可欠なのです。

マーケティング用語の専門的な解説

リテンション戦略は人材への投資回収率を高める

ここで、士業の先生方が事務員の評価と報酬設計を論理的に捉えるために不可欠な二つの経営用語について解説します。人材への投資を「コスト」ではなく「資産」として維持するための視点です。
一つ目のリテンション戦略とは、優秀な人材が離職するのを防ぎ、長期的に定着させるための戦略を指します。士業の事務員採用においては、採用コストや育成コストといった初期投資が大きいため、すぐに退職されてしまうと、その投資が無駄になります。事務員への適切な昇給、ボーナス、そして感謝の言葉といった評価は、このリテンション戦略の核となります。優秀な事務員を長期的に定着させることは、新しい人材を再採用し、一から教育するコスト(エグジットコスト)を回避するための、最も合理的な投資回収率の高い戦略となります。

エグジットコストは突然の離職がもたらす損失

二つ目のエグジットコストとは、従業員が離職する際、または離職後に発生する全ての損失を指します。これには、新しい人材の採用費用、育成にかかる先生の時間、そして最も重要な業務の穴あきによる顧客からの信頼喪失などが含まれます。士業の事務所運営においては、特に業務の属人性が高いため、突然の退職によるエグジットコストは致命的となりかねません。このエグジットコストを最小化するため、先生方は「辞めてほしくない」という感情だけでなく、「辞められた場合のリスクをヘッジする」という合理的な仕組みを構築する必要があります。

バックオフィス業務の「当たり前」を公正に評価すべき論理的理由

バックオフィス業務に対する公正な評価は、単なる福利厚生ではなく、事業の品質を維持するための合理的な仕組みです。

期限厳守の重要性と感謝の価値

士業の業務において、裁判の期日や許認可申請の期限といった「期日厳守」はプロとして当然の義務です。この「当たり前」を、先生が専門業務に集中している裏側で、確実に遂行してくれる事務員の努力は、先生の信用という最も重要な資産を守っています。そのため、この地道な努力を「当たり前」と見過ごすのではなく、年次昇給やボーナスといった具体的な報酬、そして定期的な感謝の言葉をもって評価することが、事務員のモチベーション維持に不可欠です。

事務員の育成と業務の多重化への投資

優秀な事務員に適切に報酬を支払うことは、事務員が更なる専門知識を学び、より高度な業務をこなしてくれるようになるという、人的資本への投資となります。また、一人の事務員に依存しすぎる「属人化」というリスクを回避するため、二人目の採用を検討する際にも、既存の優秀な事務員が新しい人材の育成を担ってくれるという多重化の効果も期待できます。

事務員の報酬設計 昇給・ボーナスで期待以上のパフォーマンスを引き出す

期待に沿う、あるいは期待以上のパフォーマンスが見られる事務員には、その活躍に見合う報酬を支払うことが、事業の成長を加速させます。

年次昇給とボーナスで貢献を具体的に示す

事務員が期待通りのパフォーマンスを示している場合、年次ごとに昇給させたり、夏と冬にボーナスを支給したりすることは、彼らの貢献を具体的に示す最良の方法です。特に事務作業は成果が目立ちにくいため、昇給とボーナスという明確な形で評価を示すことは、「自分の仕事が正当に評価されている」という満足感を与え、定着率を高めます。

採用・育成コストを考慮した適切な報酬水準の維持

ある程度育った事務員と同じレベルの即戦力を外部から採用する場合、採用コスト(媒体費用、選考時間)や育成コストを考えると、非常に割高になることが多いです。そのため、退職されて困るような優秀な事務員には、外部から即戦力を採用するコストを考慮した上で、活躍に見合う、少し高めの報酬を支払うことは、長期的に見て極めて合理的な経営判断となります。

突然の退職リスクを最小化する戦略的ヘッジ

エグジットコストを最小化するためには、「辞めてほしくない」という感情だけでなく、退職時のルールを戦略的に設計する必要があります。

60日または90日前申告を促す退職手当制度の設計

やむを得ず退職となる場合でも、遅くとも六十日、できれば九十日前に申告してもらうことを、雇用契約書等で強くお願いしておくべきです。そして、九十日前の申告で退職した場合にのみ、一定額の退職手当を支給するという独自の制度を設計することで、突然の退職を未然に防ぐことができます。九十日あれば、代わりのスタッフを採用し、引き継ぎまで行ってくれる可能性は極めて高く、事務所の業務に致命的な穴が開くリスクを大幅に減らすことができます。

キャリアアップを尊重し快く送り出す心構え

士業事務所の事務員は、そのキャリアの特殊性から、三十代手前で他の職種にキャリアチェンジとなることはよくあることです。これは、成長と意欲の証であり、経営者はそのキャリアアップを尊重し、快く送り出してあげるべきです。辞めていく人材とも良い関係を築くことは、将来の協業の可能性や、士業コミュニティでの評判という、新たな人的資本に繋がります。

属人化を回避し、ライフイベントを尊重する経営者の心構え

人材に依存しすぎることによるリスクを回避し、持続可能な経営を行うための心構えも不可欠です。

属人化しないための業務オペレーションの構築と多重化

一定の業務量になった状態で一人の事務員に依存しすぎると、それが事務所経営の致命傷となりかねません。そのため、業務マニュアルの整備や、クラウドツールを活用した情報の共有によって、誰でも業務を引き継げるオペレーションを構築すべきです。また、事業規模に応じて二人目の採用を検討し、業務を多重化することで、属人化というリスクヘッジを行います。

ライフイベントを尊重し上手に付き合う柔軟性

結婚や出産、育児といったライフイベントは、人を雇う以上避けては通れません。経営者は、これらのライフイベントを柔軟な勤務形態やリモートワークで尊重し、上手に付き合っていくことが望まれます。この柔軟な対応こそが、優秀な人材を長期的に定着させ、新しい人材を採用・育成するコストを回避するための最も合理的な方法となります。

記事のまとめ

士業の安定経営は、バックオフィス業務を支える事務員への公正な評価と適切な報酬によって実現します。事務員への投資は、リテンション戦略であり、新しい人材を採用するコストを回避するための最も費用対効果の高い戦略です。
特に、九十日前申告による退職手当の支給といった合理的な仕組みを導入することで、突然の退職という致命的なリスクを戦略的にヘッジできます。優秀な事務員への適切な報酬と、ライフイベントを尊重する柔軟な経営姿勢こそが、先生の事業の安定と成長の鍵となるのです。
今後も、私の経験に基づいた、事務員との具体的な評価面談の方法や、属人化を防ぐための業務マニュアルの作成ノウハウを、無料で共有させていただきます。

▶ 内容証明郵便によるサポートの詳細はこちら